この惨めな夜を

 

この惨めな夜を、惨めなままで終わりたいのだ。

そんな一文が頭の片隅に浮かんでいた。
久しぶりのキーボードの感触は指先には重すぎるように感じるし、パソコンの画面はどうも明るすぎるように感じる。それでもなんとなくこの不便さを楽しんでいる。この微かな憂鬱をあえて選んだ自分を嬉しく思っている。あえて不便を選ぶ。退屈を満喫するのではなく、とことん退屈になってしまいたい。

履き慣れたスリッパ、定位置の持ち物、決められた関係。当たり前の日常が馴染まなくなってきた頃、時間の経過を感じる。

今を生きる、と言いながら今を生きることすらままならない。いつかの話なんてできそうにもなく、未来のために種を植えた人の横で未来用の種を食べている。それでも今日は満足に生きれそうにない。


この惨めな夜を。惨めなままで終わりたいのだ。解決しようとしてはいけない。周到に用意してきた言葉の頭をつまづこう。散らばった部屋を散らばったままにして眠ろう。

「居心地が悪いところ、嫌いじゃないんですよね」と言ったのは嘘で本当で、できれば会うたびに抱き合わなくてもいいように、もう少しだけ会えればいいのだけれど、と思っている。